まるでネコの肉球が大きく盛り上がったような手で、それが翌日には、風船のように大きくなって行く。透き通った皮膚の内側に水が溜まり、面積を広げて行く。
世田谷区の新年こどもまつり会場で、ボランティアグループの一員として、かれこれ20年以上焼きソバを作り販売しているが、このような事態は初めてで、何気ない動きから悲劇は起こった。右足を踏み出し焼きソバソースを取ろうとしたら、右足がツルリ、体制を整えようと出した左手が鉄板の上へ。皺になった大判焼きのように平らで白く、自分の手とは思えない。熱いとの実感はなく、触ると固くなっている。そんな時人間は不思議な行動に出るもので、誰かがやかんの水を出した、私も思わず手を差し出し、水を受けた。冷静に考えると、そんなことで火傷が緩和される訳はないが、咄嗟にそんな行動に出たのだろう。誰かが「テントの裏に水道がある」と叫ぶ。この頃になってやっと事の重大性を認識出来るようになってきた。手を冷やしていると、コンビニに走ってくれた人が氷をもってきた。それから一時間、氷の袋に手を入れ冷やす。再三にわたり救護係りが来て様子を聞く。最低一時間はそのまま冷やすようにとの指示。
救急病院の処置は包帯を軽く巻くのみで、それでも医者かとの言葉が喉まで出たがガマンする。翌日は休日で地元の医者は休業。益々大きくなる肉球をただ見つめるのみ。医者は高齢であるが、至って冷静に処置するが、おしゃべりが好きなようだ。手の平の皮を切り取り水を抜く。メッシュになった人工皮膚とやらを被せ、軟膏を塗ったガーゼを被せ包帯を巻く。「火傷は一度から四度まであり、あなたは三度で、もっと酷ければ皮膚の移植が必要となる。」なぜか医者のそんな言葉で安心する。二ヶ月が過ぎ、手の平は赤く通常の感覚は戻っていない。周りは年寄り扱いして、次回からは焼きソバの係りから外すと言う。